テクニック⑦ 日中は窓を閉める
夜間通風によって室内に蓄冷された冷たい熱を、次の日の昼間に有効に活用するために重要なもうひとつの工夫があります。それは、朝起きたら窓を閉めてしまうことです。
第7回でご紹介したわが家の室温と外気とを示したグラフをもう一度見てください。
外気温は、日が昇ると同時に急上昇します。そのとき、窓を開けたままでいると、室温は外気温に連動して上昇してしまいます。それでは、せっかく前の晩に蓄えた冷えた熱が、すぐに失われてしまいます。冷えた熱を失わずに、室内に閉じ込めておくために、外が暑くなる前に、窓を閉め切ってしまうのです。
朝、窓を閉めてしまうなんて、誰もが信じられないことだと思います。夏の朝のさわやかな風は、気持ちがいいですから、開けておいた方が涼しいと誰もが思うはずです。私も、そう思っていました。
でも、本気で「クーラーなしで、クーラーよりも快適な住まい」を目指すなら、騙されたと思ってやってみてください。その成果は、お昼に、はっきりとわかります。その頃は、外がすっかり暑くなっていて、でも、閉め切られた室内は涼しいままなのです。その冷やりした感覚は、格別です。この感覚を味わうと、もうやめられなくなってしまうことを請合います。
そのときの室温と壁の温度を測ってみて、「なるほどそうか」と腑に落ちたことがあります。そのとき、わが家の室温は28℃なのですが、壁の温度は、室温より若干低く、26~27℃だったのです。「表面温度が低ければ体感温度は低くなる」ということは、何度も指摘してきたことですが、このたった1~2℃の温度差が、「冷やり感」をもたらしていたのです。
こうした体験が、「気温を下げるのではなく、表面温度をさげること」が、「涼しさづくり」の極意であるということに、私を気づかせたのでした。
こうした驚くような涼しさは、皆さんの家でも実践できます。ただし、この手法を実践するための注意事項があります。それは、外から押し寄せてくる放射の影響をしっかりと抑制することです。外からの日射が窓から入り込んでくるような状態で、窓を閉め切ると温室現象を起こしてしまい、室温はかえって上昇してしまいます。そうならないように、第8回で紹介した自己診断をしっかりと行い、その改善策を実施してください。そうすれば、「クーラー以上の快適さ」を体験できるはずです。
【一般のマンションで驚きの成果が!】
これまでの話を聞いて、「経堂の杜」という特別に計画された家だから、そんなことができたんだろうと思われる方がいるかもしれません。私も、最初そう思っていました。ところが、一般的なマンションで、実践してみる機会を得て、私も驚くような成果が生まれました。
完成したマンションの入居者を対象に、セミナーを開き、そして、実際にお宅を何度か訪問しながら指導し、ここで指摘したすべてのことを徹底して実践したのです。その結果が、このグラフです。
私が指導する前は、外気温が36℃のとき、室温32℃でしたが、指導後は、室温が28℃になったのです。
もちろん、クーラーは一切使っていません。実際に、この家にお邪魔すると、わが家で体感できた快適性と同じように、なんともいえない「冷んやり感」があって、まさに「クーラー以上の快適さ」が実現しているのです。
こうした経験から、建物の工夫によって「涼しさ」が得られるのではなく、要は住まい手の暮らしの工夫が重要なのだということがわかりました。ですから、読者のみなさんも工夫次第で「クーラー以上の快適さ」は、実現できるのです。
このコラムを読んでいる皆さんが、マンションにお住まいだとしたら、その家はコンクリートでできていますので、構造的に高い蓄冷能力が備わっています。私は、その能力を活かして、一般のマンションでも、実際に「クーラー以上の快適さ」を実現させることができました。
テクニック⑧ 熱容量を大きくする
私は、蓄冷の話の中で、コンクリートなどの素材には、熱を蓄える力があると説明しました。第7回と、最終回でその力を活用することで実現したわが家や一般マンションでの成果を紹介しましたが、この蓄冷という方法は、マンションのようなコンクリート住宅でないと効き目がないのでしょうか。
熱を蓄える能力のことを、「熱容量」といいます。この熱容量が大きい素材ほど、熱を蓄える能力が大きいことを意味します。私たちの身近なもので、熱容量が大きなものは、水です。建築で使われる熱容量の大きな素材は、コンクリートや石で、水の約半分の熱容量です。木材は、熱容量が小さく、コンクリートの約三分の一の値となります。
こうした知識がある専門家の間では、熱容量の大きなコンクリートでできたマンションでは、蓄冷は有効だが、木造住宅などのコンクリートを使っていない戸建住宅では、蓄冷の効果は期待できないと、考えられてきました。そうした認識から、蓄冷を活かした住宅を各ハウスメーカーは、考案してこなかったのが実情です。
本当にコンクリート造以外の住宅では蓄冷効果は望めないのか、あるハウスメーカーが実際に分譲した戸建住宅で、実験をやってみました。そのハウスメーカーのつくった住宅は、鉄骨造ですが、木造住宅と同じように床・壁・天井の熱容量は、それほど大きくはありません。場所は、横浜市です。その実験結果が、下のグラフです。結果は、会社の担当者が驚くほどの「涼しさ」でした。
確かに、コンクリート住宅に比べると、住宅の構造的には熱容量は大きくないのですが、室内には家具や食器などの小物などあり、それぞれの熱容量を合わせると、それなりの熱を蓄える能力になっているのだと思います。
こうした実験でわかるように、コンクリート住宅以外でも、それなりの蓄冷効果は、得られそうです。ですが、熱容量を大きくする工夫ができれば、蓄冷効果を、より高めることにつながることは事実です。そのための工夫をいくつかご紹介しておきます。
ひとつは、床の一部をコンクリートとタイルなどで仕上げる方法です。また、一部の壁をコンクリートブロックを積んで仕上げる工夫も有効です。
海外の事例で、面白いことをやっている写真を見たことがあります。その工夫とは、ワインを飲み干した空き瓶に水を詰めて、壁際に積み上げているのです。
水は、コンクリートよりも熱容量が大きい性質がありますから、蓄冷を促進させるには、なかなかいい方法です。ワインを飲めば飲むほど、家が涼しくなるという、大変ユニークな方法だと思います。
最後に蓄冷効果を比較する実験方法をご紹介します。
【蓄冷効果を比較する実験】
◆用意するもの◆
石焼ビビンバの器、木製のサラダボール、氷、お湯
①石焼ビビンバの器に氷水を入れる
十分に器が冷えたら、氷水を捨てて、器に今度は40℃のぬるま湯を入れる
②片や、木製のサラダボールに同じように氷水を
同じように40℃のぬるま湯を入れる、
Q:結果は?それぞれのぬるま湯は、どうなると思いますか?
A:石焼ビビンバの器の方が冷たくなる
B:サラダボールの方が冷たくなる
C:どちらも同じ
答えは、Aの石焼ビビンバの器の方です。
この差は、石と木の、それぞれの素材の熱を蓄える能力の違いによって生まれます。
このことが理解できると、もし皆さんの住んでいる家がコンクリートでできたマンションだとしたら、この夜間蓄冷の方法は、有効だということがわかると思います。それは、壁や天井がコンクリートでできているからです。
今回でこの連載は一区切りとなります。
全11回にわたり様々な事をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?ぜひ皆さんも、今回のコラムでご紹介した事をいかし、もっと快適な暮らしを手に入れてみてください。
ありがとうございました。