【自己診断方法】
まず、涼しくしたい部屋を特定します。その上で、次の各項目にしたがって、その部屋の各箇所の表面温度を確認します。その時、第3回でもご紹介した赤外線放射温度を入手すると、各箇所の表面温度を正確に測ることができますので、重宝します。安いもので2000円くらいでも手に入る計測器がありますから、本格的に診断したい人にはお薦めです。
表面温度の測定は、夏のよく晴れた日に行ってください。
【自己診断】
診断の目的は、自宅の表面温度の状況がどうなっているのかを、確認することです。確認する項目は、次の3つです。それぞれの表面温度の高いところが、家を暑くする原因ですので、その原因を特定し、その上で改善策を講じます。
【診断①日射の侵入チェック】
まず、室内の暑さは、太陽からの放射の影響によって始まります。その一番大きなものが、窓から差し込む日射です。日射が室内のモノに当たるとそのモノの表面温度を上げます。その実態を特定するために、対象となる部屋のすべての窓の日射の入り具合をチェックします。そして、日射を受けている箇所の表面温度を確認します。
たとえば、日射の当たっている床面の表面温度は、40~45℃くらいになっているはずです。その表面温度が、室温よりも高ければ、そこからの放射によって、体感温度を上げる原因となります。
日射による表面温度上昇を招いている箇所が特定できたら、改善策を講じましょう。具体的な改善方法は、第6回「緑のカーテンの凄さに驚く。」を参照して行ってください。
一度蓄えられた熱は、抜けづらい
たとえば、あつあつの石焼ビビンバの器。その温度は200℃を超えています。そして、その器は、しばらくずっと熱いままの状態を保ち続けます。こうした、一度蓄えられた熱が、すぐには抜けず、長時間保たれる現象を蓄熱といいます。
日射によって、室内のモノが熱せられると、その熱はそのモノの中に蓄熱され、しばらくその熱を保ち続けます。ですから、各窓から入る日差しをほっておくと、家の中のあらゆるモノの中へ熱が蓄熱してしまい、その結果、室内の表面温度が常に高い状態となってしまうのです。
東日と西日とでは、どちらが暑い?
太陽が昇り始めたときに室内に入ってくる東日と、夕方の西日とでは、どちらの方が暑いと思いますか?答えは、どちらも太陽から受ける熱量は、まったく同じなのです。でも、経験的には、東日よりも西日の方が暑く感じますよね。それは、東日は、まだ室内に熱が蓄えられていない状況でやってきますので、それほど気にならないのですが、西日は、室内が温まった状態で追い討ちをかけるように、室内に入り込むので、暑く感じるのです。
「クーラーなしで快適にする」ためには、徹底して室内の表面温度のコントロールを行う必要があります。そのためには、東日も、西日も、それぞれ同等に対策を講じることが重要です。
下の図で、夏の太陽の軌道を見ると、太陽は、北東の方角から上がって、北西の方角に沈むことがわかります。北側の窓からは日射の影響はないとお考えの人が多いと思いますが、この図でわかるとおり、明け方や夕方には、北側にも日射は回ってきますので、北向きの窓のチェックも忘れないでください。
測定するタイミングは、日射の影響を一番受けている時間帯を選んでください。たとえば、東向きの窓周辺は午前中に測定し、西向きの窓周辺は午後に測定してください。
【診断②窓の外の「熱だまり」チェック】
次にチェックするのは、各窓の外の状況です。窓から日射が入り込んでなくても、窓の外に日溜りがあれば、その熱は室内に影響します。たとえば、第5回で紹介した流山の家では、バルコニーの床面に日射が当たり、その表面温度は55℃になっていました。
そして、その床からの放射によって、窓ガラスが熱せられ、窓面の温度を室内側から測ると36℃になっていました。
こうして各窓の表面温度が高くなり、そこからの放射が、その部屋を熱くする原因となっているのです。
では、実際に自宅の診断をやってみましょう。
まず。各窓の表面温度の測定を行います。室温よりも高温になっていれば、更にその原因をさぐります。窓に日射が直接当たっている場合は、診断①ですでにその原因を確認済みですが、重要なのは、日射が直接当たっていない窓面の温度が高い場合です。
そうした窓が発見できたら、その原因をチェックします。その原因は、窓の外にあります。おそらく窓の周辺に表面温度が高温になっているモノがあるはずです。こういう場面が、まさに例のシャーロック・ホームズの心境になるところですので、入念にチェックして、その正体を暴いてください。
この場合、室内からその窓を通して外を眺めたときに、見えるすべてのモノが、容疑者となります。
見えるということは、そのモノから発せられる光が自分のところに届いているということですが、光と同時にそこからは放射熱も届けられます。ですから、見えるものは容疑者なのです。その中で表面温度が高く、かつ、見た目の面積が大きいモノが、犯人です。
たとえば、窓のすぐ外の足もとは何でできていますか。それがコンクリートで日射が当たっているとしたら、その表面温度は45℃くらいなります。その先にアスファルトの道路面が見えませんか。その表面温度は50℃くらい。駐車スペースの自分の車が見えませんか。そのボンネットが濃い色で日射を受けていたら、その温度は80℃を超えることもあります。お隣の屋根が見えませんか、その温度は70℃くらいになります。
というように、窓の外には、気温よりも高温なモノが沢山あります。こうしたモノからの放射を受け、その結果、窓の表面温度が上がっているのです。そのことを確かめ、原因を特定してください。その上で、改善策を講じましょう。具体的な改善方法は、次回第9回のコラムでご紹介します。
北向きの窓が熱源に!
北向きの窓は、日射の影響が少ないと考えられて、見落とされがちですが、実は、暑さの原因となることが多くあります。
その理由として、【診断①】でも指摘したように、北側でも日射が当たるということも挙げられますが、日射が当たっていなくても、北側に高温になった熱源があることがよくあるので、注意が必要です。
たとえば次の図のように、北側に道路がある場合、夏の太陽高度は高いですから、その路面は、日にさらされ50℃を超える温度になります。そこからの放射が、北向きの窓を直撃し、室内に熱を供給してしまうのです。ですから、北側の窓の対策も忘れないようにしてください。
【診断③天井の表面温度チェック】
最後にチェックするのは、天井面の温度です。夏は太陽高度が高いため、日射による強烈な影響を常に受けるのが屋根面で、その表面温度は極端に高くなります。ですので、対象となる部屋が最上階にある場合、その部屋の天井面が屋根からの熱の影響で高温になっている場合がよくあります。
その状況を確認するために、天井の表面温度をチェックしてください。その温度が高くなっていれば、対策が必要です。具体的な改善方法は、次回第9回のコラムを参照して行ってください。
次回はそれぞれの原因に対する改善方法をご紹介します。ぜひご覧ください。
イラスト 大竹美由紀