私も、実際に経験する前なら、「なんだ、どんなに頑張っても、28℃程度か!?」と、その28という数字を過小評価したと思います。ところが、普通の場合と違って、「この28℃は、涼しい」のです。
この「28℃の体感」について、少し詳しく説明しようと思います。
ふたつの家を比較してみたいと思います。
A住宅:室温は28℃、窓面や窓周辺の壁の表面温度は36℃
B住宅:室温は28℃、窓面や窓周囲の壁の表面温度は28℃
たとえば、第5回で紹介した住宅の場合がこのA住宅で、バルコニーの床面が日射で高温となり、その影響で窓の表面温度は36℃くらいになっていました。
この状態のままで室温だけをクーラーで下げると、A住宅のような室内環境となります。このA住宅での体感温度を算出してみましょう。算出方法は第4回で確認したとおり、気温と表面温度との平均値となりますから、
(室温28℃ + 窓の表面温度36℃) ÷ 2 = 32℃
という数値になります。ですから、室温が28℃でも、体感温度は、32℃となってしまうのです。
「28℃では涼しくない」と感じる家の場合、こうしたA住宅のような状況であることが多いのです。
一方、2000年8月に実現した我が家の状況が、B住宅です。この場合の体感温度は、
(室温28℃ + 窓の表面温度28℃) ÷ 2 = 28℃
となり、A住宅と全く同じ室温でも、体感は全く違い、涼しいのです。
実際に、36℃の外から、室内に入ったとたんにひんやりとし、誰もが驚きます。そして、そこでクーラーではなく扇風機だけを廻して風をつくるようにすると、「至福の心地よさ」が生まれるのです。
こうした感覚を味わった私は、「実は、クーラーって、快適じゃないんだ」ということに気づくようになりました。その気づきは、こんな体験から生まれました。
私の事務所は、自宅に併設していましたので、2000年の夏は、仕事場も我が家同様、クーラーのまったくない環境です。その事務所で仕事をいつものようにしていて、ある日、打合せに出かけたときのことです。私の事務所で仕事をしていると、とても涼しくて快適なので、事務所を出て街中を歩いたとき、初めて、「あっ、今日は暑いんだ!」と気がつくというのが私の生活のパターンになっていました。
そして、私は、東京駅のそばのあるオフィスビルに伺いました。そのビルでは、当たり前のようにクーラーを稼動させていました。そのビルへ入った当初は、気持ちがよかったのですが、2時間くらいずっとそこで打合せを続けていると、体の血行がだんだん悪くなり、だるくなってしまいました。クーラーのない自分の事務所では、こうしただるさを感じたことは全くありませんでしたので、このとき、「クーラーって、不快なんだ!」ということを実感したのでした。
そして、この話にはオチがあります。そうした「クーラーの不快さ」を気づかせてくれたオフィスビルは、実は、省エネルギーを普及推進させている財団の事務所だったのです。
こうした経験を通して私は、「本当の省エネルギーは、快適さのレベルを一変させるけど、その変化の度合いが逆に大きすぎるために、それを体験したことのない人には、いくら想像力を膨らませても、その【すごさ】が理解できないのだ」ということに気づきました。
省エネルギーが世の中に普及しない理由は、そこにあるのだと思います。省エネルギーを推進するそこの財団の職員にしても、その【すごさ】に気がついていないのではないかと思います。世の中に、その【すごさ】の実感が共有されれば、省エネルギーは、ごく当たり前に普及していくだろうと思います。
次回は「クーラーよりも快適な家」の作り方をご紹介します。ぜひご覧ください。