実際に対応してみて、驚くような効果が生まれました。具体例をご紹介しましょう。
ご紹介するのは、千葉県の流山市というところにある、木造二階建てで、小学校入学前の元気な男の子が二人いらっしゃる、お宅です。ここのご夫婦は、できるだけ自然の力を活かして、クーラーなしで快適に暮らしたいと考え、建築家と相談しながら、家を完成させました。
写真の家が、そのお宅です。二階にリビングがあります。涼しさづくりの工夫は、まず、きちんと庇(ひさし)を付けることです。
右側の写真は、南側の二階のバルコニーから撮っているのですが、南向きの大きな窓の上に、庇がでていますよね。これがすごく重要で、この庇が、日除けとなり、室内に強烈な夏の日射が入ってくるのを防いでいます。冬は、太陽高度は、低くなるので、この庇に日射は邪魔されずに、室内に導かれます。
次の工夫は、通風です。夏の風向きに合わせて、南側から風を入れ、北側から風を抜くように、窓の配置と間取りが計画されています。夜寝るときも窓を開けっぱなしで大丈夫なように、防犯の対策も施しました。
風をよく入れて、直射日光を入れないというのが、涼しい家づくりの基本です。
他にも、日射の影響を受けやすい屋根の断熱を強化して、焼けた屋根からの熱が入ってこないようにするなど、いろいろな工夫が取り入れられました。
こうした工夫を整えて、クーラーは設置しないで、生活が始まりました。
さて、この家は、涼しくなったのでしょうか? 答えは、残念ながらとても暑かったのです。実際にどれくらい暑いかを確認するために、外気温と室温とを測定してみました。その結果が、次のグラフです。
グラフを見ると、外気温は、夜が27℃くらいで、日中は32℃くらいになっているのがわかります。リビングの温度は、日中は34℃にまでなっています。夜も30℃までしか下がっていません。
これでは暑いですよね。実際に、とにかく暑くて、かなりの我慢が必要な状況でした。
暑さの犯人は何なのか。一緒に、写真を手がかりに探してみましょう。犯人を特定できれば、この家を改善することができるのです。おわかりになりますか? ヒントは、表面温度です。表面温度の高いところからは、放射によってその熱がポーンと飛び込んでくるのです。どこの表面温度が高いと思いますか?
答えは、バルコニーの床です。バルコニーの写真を見ると床面に日射が当たっていますよね。その日射によって、床の木材の表面温度は、55℃にまでなっていました。
裸足では立っていられないような熱さです。この床からは、55℃の熱が放射によってポーンと飛び出し、リビングの窓ガラスを直撃します。そして、その熱は、窓ガラスにジワーッと吸収されます。リビング側からガラスの表面温度を測ってみると36℃にまで上がっていました。
そして、今度は、熱くなった窓面から室内に対して熱を再放射するのです。窓からポーンと飛び出した熱は、天井や床や壁、家具などに当たって、それぞれのものの表面温度を上げます。こうして熱くなった周囲の表面温度が、この家を暑くしていたのです。
こうして、この家が暑くなってしまう原因がわかりました。バルコニーの床にたまった熱が暑さの始まりです。ならば、この始まりを断ってしまえばいいわけです。バルコニーの床面の表面温度を下げるために私が提案したのは、次の写真のような方法でした。
普通、簾は窓から差し込む日射をふせぐために、窓のすぐ外にかけるものだと思っている人が多いと思いますが、そうではないのです。窓先の放射熱の発生源を全部除去したいわけですから、写真のようにひさしから手すりの位置まで、簾で全部覆ってしまうことが重要なのです。するとこのバルコニー全体が日陰になって、床に熱がたまることはなくなるわけです。窓の外に熱がたまっていなければ、その影響もなくなって家の中は涼しくなるという原理です。
グラフを見てください。
簾をかける前に比べて、かけた後は、温度がポンと下がります。ようやく外気温より室温は低くなりました。これで風を入れてあげれば、最初よりもうんと涼しく感じるはずです。
家の中の床や壁、天井の表面温度も高くなっていませんから、放射の影響も軽減され、体感は全然違います。うんと楽になりました。
次回は「緑のカーテン」の凄さについてご紹介します。ぜひご覧ください。