当時この小学校の音楽の先生だった菊本るり子さんたちが中心となって、クーラーのない快適な学習空間を創りだし、同時に環境教育にも役立てようと、2003年から毎年取り組まれるようになったものです。
自然が創りだす「涼しさ」を肌で感じたり、苦手だったキュウリが好きになったり、土の中にカブト虫の幼虫を発見して大喜びをしたりなど、単なる冷房装置では生まれない発見や感動を、ここの生徒たちは味わいました。そして、今では、板橋区の他の学校をはじめ、各地の学校で、この「緑のカーテン」への取組みが広がるようになりました。
「緑のカーテン」は、庭のある住宅でも、庭のない集合住宅でも取り組むことができて、なおかつ、夏の暑さ対策として、大変有効な方法ですので、その効果と実践方法について、ここでは詳しくお教えしようと思います。
今では全国的に拡がりつつある「緑のカーテン」ですが、その火付け役は、実は、私だろうと思います。「緑のカーテン」の普及の始まりは、私がプロデユースをして、2000年に完成した「経堂の杜」という集合住宅での取り組みがきっかけとなっているのです。
「経堂の杜」は、私が独立して初めて取り組んだ本格的なエコ住宅です。12世帯の集合住宅ですが、私たちの自宅もここにあります。
私の自宅は1階にあって、地下も部屋として活用したメゾネットとなっています。我が家の上の二階に住むご夫婦とは、大変仲良くなっていましたので、クーラーを一切使わずに、夏をどこまで快適にできるかチャレンジするために、「緑のカーテン大作戦」と銘打って、2000年の4月から二家族共同で夏の準備に取り掛かりました。
作戦の基本は、バルコニーの空間全体を徹底して日陰にして、窓ガラスの表面温度を低く抑えることです。そして、ヘチマやニガウリなどの瓜系の植物を一階の地べたに植え、一階の我が家と上のお宅のバルコニー全体を植物の葉で覆うことにしたのです。瓜系の植物は、一年性で育ちが早いため、その年の8月初旬には、写真のような見事な「緑のカーテン」が完成しました。
この2000年の取り組みでは、大きな気づきがありました。それは、「緑のカーテン」で日陰をつくると、スダレを使うよりも断然涼しくなるということに気づいたことでした。2000年に取り組んだ「緑のカーテン」は、バルコニーの南側を覆っていますが、東側の窓面は、「緑のカーテン」ではなく、スダレで覆われています。
当時、私は、「緑のカーテン」でもスダレでも、窓の外を日陰にできさえすれば効果は同じだと思っていました。ところが、2000年の夏に、そのふたつを比較してみて、その効果の違いに驚いてしまいました。「緑のカーテン」で覆われた窓ガラスの近くにいると、全く暑さを感じないのですが、スダレで覆われた窓ガラスの近くでは、なんとなくモワーッとした暑さを感じるのです。
この違いはなんによるものなのか、私は直感しました。「ガラスの表面温度が違うのだな」っと。
またまた、シャロック・ホームズっぽくなってきました。すぐに私は、例の赤外線放射温度計を取り出して、窓ガラスの表面温度を測ってみました。すると、「緑のカーテン」に覆われた窓面は28℃、スダレに覆われた窓面は32℃。犯人はまたしても、この表面温度の違いにありました。
さらに、私は、日射を受けているスダレと「緑のカーテン」とでは、それぞれの表面温度もちがうのだろうと思いました。さっそく測ってみました。その違いは、歴然としたものでした。
日射を受けたスダレの反対面は、なんと38℃にもなっていました。そのスダレからの放射によって、窓ガラスの表面温度は高くなっていたのです。一方、幾重にも葉が重なりあって日射を防いでいる葉の裏面の温度は、28℃でした。スダレと比べ10℃も温度差があったのです。だから、スダレに覆われた窓ガラスの表面温度は低く保たれていたのです。
スダレと植物の葉との表面温度の違いは、なんによるものなのでしょう。
その答えは“水”です。水を含んでいない乾いたスダレは、日射を受けるとスダレ本体が熱を持ちますが、水を含んだ植物の葉は、日射を受けても水の蒸散作用によって温度が上がらないのです。
こうした「緑のカーテン」の凄さに驚いた私は、それを期に、緑の力を活かした多くの住まいづくりに関わることになります。そうした活動の中で出会ったのが、先にご紹介した、板橋第七小学校の菊本さんだったのです。
次回はクーラーのいらない究極の住まいのつくり方をご紹介します。ぜひご覧ください。
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「緑のカーテン」の具体的な実践方法や効果については下記のページでご紹介しています。
「緑のカーテン」の具体的な実践方法:緑のカーテンの作り方
「緑のカーテン」の効果:緑のカーテンをもっと楽しもう
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