夏には夏の暮らし、冬には冬の暮らし
季節に応じて、自然と共に暮らす「暮らし方」をお伝えします

第1回 涼しさづくり事始め

私の暮らしている世田谷は、東京の中心部に近く、住宅が密集していますから、街全体が暑くなりやすい、いわゆるヒートアイランド現象の影響をかなり受けている住宅地です。夏の暑い時期には、気温が36℃にもなり、夜中でも27℃というような日が1~2週間続きます。

こんな場所で、はたして「クーラーなしで快適に暮らす」ことなんてできるものなのか?

正直言って、私も、はじめは「そんなの無理だ」と思っていました。それでも、「どこまでできるか、やれるところまでやってみよう」と、独自のチャレンジを始めたのが96年のことでした。 そうしたチャレンジを繰り返し、その成果が、2000年に完成した「経堂の杜」で実を結ぶことになります。

チームネット事務所

結果を先に言ってしまうと、2000年の夏、「クーラーなしでも快適」になったという程度ではなく、「クーラー以上の快適さ」を生まれてはじめて味合うことになるのです。逆に、「クーラーで無理やり冷やすやり方は、実は不快なんだ」と感じるようになり、自分の「涼しさ」に対する意識が大きく変わることになりました。 この「経堂の杜」で実現させた究極の暮らしについては、後程、詳しくご紹介することにします。

ここでは、その「涼しさづくり」の基本について開眼することになった、96年の梅が丘の事務所での取組みについてお話したいと思います。

初めての事務所での取組み

 私は、95年の春に独立し、小さな会社を設立させました。

はじめは、自宅の一室を仕事場にしていましたが、その年の秋頃に決心し、事務所を構えました。
それは、小田急線の梅が丘という駅のそばにあって、小さな四階建てのビルの最上階でした。そして、私は、次の年の夏を目標に、「この事務所でどこまでクーラーに頼らない暮らしが可能か」、チャレンジすることにしました。  

思いつくことは何でもやってみることにしました。  

借りた事務所は、とてもオシャレなところで、エレベータを上がるといったん外のルーフバルコニーに出ます。最上階には、私が借りた20畳くらいの小さな事務所がひとつあるだけです。この事務所は、三面がルーフバルコニーに面していて、その贅沢な外空間を味わえることが、魅力でした。  

梅ヶ丘の事務所

クーラーに頼らないために、まず、この贅沢なバルコニー空間をすべてスダレで覆って、徹底して日射遮蔽をすることにしました。「オシャレなエコオフィス」を目指していましたから、スダレを全部、白いペンキで丁寧に塗装し、バルコニーに置くテーブルも白く塗って、南欧風のリゾートのような雰囲気をめざしました。  

事務所の近くに安くて美味しい行列のできるおすし屋さんがあります。そのお店に行って、発泡スチロール製のトロ箱をただで10個くらい貰ってきて、底に排水用の穴をあけて、事務所の屋上に並べて菜園をつくることにしました。生ゴミの堆肥化にも挑み、土作りにもこだわった有機野菜づくりを始めました。かぼちゃやキュウリなどのつる性野菜を這わせてバルコニーの上を緑で覆う作戦も実施しました。バルコニーの散水栓にホースをつけて屋上まで延ばし、タイマーで毎日決まった時間に自動で水遣りができる工夫もしました。  

こうして、「オシャレなエコオフィス」はけっこういいカタチになっていきました。天気のいい休日には、友達を呼んで、バルコニーでバーベキュー。炭火焼ステーキにワイン。格別なひとときでした。で、夏は涼しくなったのかというと、クーラーなしでは30~31℃くらい、それでは暑いので、必要に応じてクーラーはやっぱり付けて仕事をしていました。

 さすがに、世田谷でクーラーなしは無理かと思いましたが、次の年に思いもかけない騒動が起き、その騒動が、私の取り組みを更に進化させることにつながります。  

私が菜園をつくった屋上は、点検時にのみ上がれる簡易的な梯子があるだけの場所で、勝手に登っていいところではありませんでした。

そこに無断でトロ箱を並べ菜園にしていたことが大家さんに発覚してしまって、大問題になってしまったのです。大家さんにとっては、こだわってつくったお気に入りの建物でしたので、一時は「私の大切な建物に、土を盛るなんて、どういうつもりですか」「出ていってくれ」という話にまでなりました。私たちは、次の日、屋上のトロ箱をすべて撤去し、綺麗に清掃して、とにかく平謝りです。そうして、なんとかそこを出ずに居させてもらうことができました。

そして、次の年の夏となりました。室温はやはり30℃を超えていますから、前年と同じようにクーラーを使っていました。バルコニーは、前年と同じようにスダレで覆われています。日射の遮蔽は充分です。前年と同じような状況であるはずなのですが、前年とは比較にならないくらい暑く感じるのです。クーラーをつけても火照った感じがするのです。

前年と違うのは、屋上に菜園がないことです。そのことによって、体感温度が大きく違ってしまったのです。それはどういうことでしょう。

その理由は、天井の表面温度だということに気がつきました。屋上にトロ箱があったときは、そこに毎日二度散水していました。トロ箱の底から徐々に染み出てくる水が、屋上全体を濡れた状況にしていて、その結果屋上のコンクリートが熱せられるのを防いでいたのです。

ところが、トロ箱を撤去し、散水をやめたことで、事務所の天井の表面温度が高くなってしまったのです。測ってみると、その温度は、室温よりも3℃くらい高くなっていました。たった3℃ですが、その差が、体感温度に大きく影響するということに、この「出て行け」騒動によって、期せずして気がつかされることになったのです。



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