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「住まいのエコアップマニュアル」の内容をより深く理解するためのセミナーがH13.1/20に開催されました。雪の降る寒い日でしたが、50名を超える参加者が集まり、好評を博しました。以下、その模様をレポートします。

エコロジー住宅市民学校番外編

自分でできる夏の住まい快適術

平成13年1月20日(土)1時半〜5時半
三軒茶屋二丁目会議室にて実施

ちょっとした住まいの工夫で、次の夏は涼しくなる!!
これから冬本番ですが、次の夏に向けて準備を始めてみませんか?
自分でできる夏を涼しく快適に過ごすための工夫をご紹介します。

平成12年4月、世田谷区経堂に完成した環境共生型コーポラティブ住宅「経堂の杜」は、屋上緑化、壁面緑化、外断熱工法、ビオトープなど多くの環境共生要素を盛り込んだ12世帯の集合住宅です。「経堂の杜」では、今夏、武蔵工業大学宿谷研究室の協力によって、温熱環境の実測調査が行われました。

今年初めての夏を迎えた「経堂の杜」では、夏を涼しく過ごすための取り組みが各住戸ごとに行われました。調査結果をみると、取り組み方の違いが各住戸の環境の違いに明確に現れていました。積極的に取り組んだ住戸では、外気温34℃の時に、エアコンなしで室温28℃という快適な環境を実現していました。一方で、全く暑さへの配慮をしていない住戸では、日中、常に室温が32℃を超える室内環境になっていました。(左グラフ参照)この結果から、住まい手の環境づくりへの取り組みが大事なことがわかります。

このセミナーでは、「経堂の杜」での実践ノウハウをもとに、自分でできる夏を快適に過ごすための方法を紹介しました。ちょっとした工夫であなたの住まいもクーラーに頼らずに涼しい環境に改善できます。


プログラム

第1部 夏を涼しくする快適手法『エコアップ』の紹介 講義録はこちら

第2部 『エコアップ』の効果〜経堂の杜実測調査の結果報告 講義録はこちら

第3部 模型で分かる住まいの性能比較 講義録はこちら

第4部 まとめ・快適な住まいづくりのために 講義録はこちら


第1部 夏を涼しくする快適手法『エコアップ』の紹介

エコロジー住宅市民学校 甲斐徹郎・篠原靖弘
講義の様子 第1部では、「エコアップ」とは何なのかを、住まいのエコアップマニュアルをテキストにして紹介しました。ここでは、その内容を簡単に紹介します。

エコアップの効果をシュミレーションによって明らかにしてみます。夏涼しく暮らすためのエコアップの原則は2つあります。それは『外の「暑さ」を入れないこと』『外の「冷気」を取り込むこと』の二つを行うことです。この2つの点を改善すれば、夏クーラーなしで暮らすことも可能なことが、下のシミュレーション結果から分かります。

グラフ・1

何もしないと・・・

窓を閉め切った状態で、その部屋の温度をシミュレートしたグラフです。最高室温は34.9℃に達しています。普段の生活では、室温がこれほど上昇する前にクーラーをつけてしまいますが、実際には、グラフにオレンジ色で示したクーラーの設定温度(ここでは28℃)とグラフの赤色の室温の差だけ冷やしていることになります。

グラフ・2

原則・1

外の『暑さ』を入れないと・・・

次に外から全く無防備に『暑さ』が侵入してくる状態を改善してみます。ここでは太陽からの日差しを70%遮った場合の室温変化をシミュレートしてみます。左のグラフ・2を見てみると、日差しを遮った効果により、最高室温が30.7℃まで抑えられていることが分かります。オレンジ色のクーラー設定温度との差も縮まり、クーラーの使用量が抑えられ、大幅な省エネ効果が望めることがわかります。

グラフ・3

原則・2

さらに外の『冷気』を取り込むと・・・

さらに外にある『冷気』を取り込むことで、より室内を涼しくしてみます。グラフ・2を見ると、夜間は空気の設定温度より外気温の方が低いことが分かります。その夜間の冷気を室内に取り込むことで、左のグラフ・3で分かるように、室温はぐっと低くなります。この冷気を活用するためには、朝、室温よりも外気温が高くなる前に窓を閉める住まい手の関わりが必要になります。こうした工夫で最高室温は27.2℃まで抑えられ、クーラーを使わないで涼しく生活することが可能だということが分かります。

講義では、2つの原則を実践するための具体的な手法を8つのテクニックに分けて紹介しました。

原則・1 外の『暑さ』を入れない

1 『暑さ』を遠ざける

2 日差しを遮る

3 照り返しを防ぐ

4 緑のカーテンをつくる

5 水を使って『暑さ』を緩和する

上の図は、『暑さ』の原因を示したものです。太陽の日差しだけでなく、道路や建物からの輻射熱、人の体からの発熱など様々な『暑さ』の原因があることが分かります。こうした『暑さ』を入れない工夫が左に紹介する5つのテクニックです。

原則・2 外の『冷気』を取り込む

6・時間による『冷気』を活用する

7・場所による『冷気』を活用する

8・『冷気』を蓄える

上の図は、家の周りにある『冷気』の源を示したものです。エコアップの第1原則の「外の『暑さ』を入れない」工夫により、家の周りに『冷気』の発生源を作り出すことができます。その『冷気』を上手に取り込むこと左に紹介した3つのテクニックを使いこなすことで、夏、クーラーなしで暮らすことも可能になります。

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第2部 『エコアップ』の効果―経堂の杜実測調査の報告

武蔵工業大学宿谷研究室 荒嶽慎・高成田恵介
第2部では、今夏「経堂の杜」で行われた実測調査の結果報告を行いました。ここでは、「経堂の杜」の夏のエコアップの様子と実測データの紹介をします。

経堂の杜では、2000年夏武蔵工業大学宿谷研究室により、温熱環境の実測調査および住まい手のライフスタイルの変容の調査を行いました。温熱環境の調査は、各住戸ならびに敷地内の調査だけでなく、経堂の杜周辺の温度変化も計測されました。住まい手のライフスタイルについての調査で、アンケートやヒアリングを重ねるとともに、実測の結果を住民に報告する場を設けて、エコアップの効果を明らかにしました。その結果、エコアップに取り組む住まい手も現れるなど、調査結果が具体的に生活に反映されるという効果が示されています。来夏に向けて、「経堂の杜」では、涼しく過ごすためのエコアップの取り組みの話題が住民の間で交わされるようになっています。


経堂の杜周辺の温度分布図

色が濃いほど高い気温である事を示しています。南側の日差しの当たる場所は34.7度に達していますが、北側のケヤキに覆われた道路は32度前後と気温が抑えられています。また、敷地北側に最高気温が30.1度に抑えられている場所があります。この理由は下図によって説明できます。この場所は、夜間は空に開放されているため、放射冷却の影響によって地上の熱が奪われます。日中は常に日陰になっているので、夜間に作られた冷気が日中も保てれるため、気温が抑えられているのです。こうした場所を「冷気の井戸」と名づけています。

冷気の井戸図解


原則・1 外の『暑さ』を入れない

夏、涼しく過ごすためには、家の中からではなく外から考える必要があります。「経堂の杜」では、外の『暑さ』を入れなくするために、すだれや緑が多用されています。一般的には日差しを遮るのにカーテンを使うことが多いと思いますが、部屋の内側で日差しを遮ったのでは、実は手遅れで、できるだけ部屋の外側に日よけをつける必要があります。「経堂の杜」では、計画段階からできるだけ、遠くで日差しを遮れるようにパーゴラが設置され(写真右)、住民の手で簡単にすだれなどの日よけが設置できるように配慮されています。

日差しを遮るポイントは、南面だけでなく、東面、西面にも日よけを設置することにあります。経堂の杜の東側の外観は、「すだれ御殿」のような状況です(写真中)。このすだれの効果により、午前中に室温が上昇してしまうことを防いでいます。

すだれと緑のカーテンの違いも実測によって明らかになっています。すだれは日差しを受けると、それ自体が温まってしまい、部屋に『暑さ』を入れる要因になってしまいますが、緑は地中から水分を吸い上げ、葉から蒸散する作用によって、それ自体が温まることはありません。そのため、緑のカーテンは効果的なのです。左写真の住戸では、すだれで日差しを遮った東面よりも緑で日差しを遮った南面のほうが、室温が低いという結果がでています。


原則・2 外の『冷気』を取り込む

上に示した敷地周辺温度分布図から分かるように、限られた範囲でも環境には大きな違いがあります。これを「微気象」といいます。原則・2では、家の周りの微気象環境をよく理解して、冷たくてオイシイ空気だけを取り入れることが大事になります。下の写真は、経堂の杜のオイシイ環境の例です。左は、建物北側の「冷気の井戸」、右は北側のケヤキです。調査の結果、どこに『冷気』の溜まり場があるのかが、明らかになるとともに、『暑さ』の原因となっている所も分かってきました。また、調査をを通じて『冷気』の上手な作り方も分かりました。今夏、『暑さ』の原因となった所を改善することでより涼しくすることも可能です。

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第3部 模型で分かる住まいの性能比較

武蔵工業大学宿谷研究室 伊藤華衣・大森栄佳・高橋加江

第1部、第2部で紹介した内容を模型によって確かめてみました。この模型は、武蔵工業大学宿谷研究室4年の伊藤さん、大森さん、高橋さんの卒業研究として作られたものです。以前、世田谷区にある深沢環境共生住宅をフィールドに行われた小学生、高校生、大学生を対象にしたワークショップの一環で同様の模型実験が実施されました。住まいの性能を知るにはとても分かりやすい実験で、今回参加した大人、建築の専門家にも大好評でした。

会場の様子
実験の様子です。机の上に模型が置かれています。太陽を模した照明が当てられているのが分かります。その様子を、熱画像カメラで撮影した画面が中央のモニターで表示されています。熱画像カメラとは、表面温度を撮影する測定機器で、熱いところが赤く、冷たいところが青く表示されます。
実際に触ってみると・・・

模型は半分が「環境共生モデル」、もう半分が「一般住宅モデル」としてつくられています。実際に模型を触ってみることで、太陽の光によってどこが熱くなるのかを体感している様子います。「環境共生モデル」の屋根には土が乗せられ、温まりにくくなっていますが、剥き出しのままの「一般住宅モデル」では、屋根面が非常に熱くなっていることが分かります。

上の図は夏の日差しの遮り方のポイントを示したものです。夏至の南中高度(太陽が一番高く上る角度)は78度に達します。そのため屋根面に強い日差しが降り注ぎます。

夏の暑さの原因の一つが屋根が受ける日差しだということが、このことからも理解できます。


屋根に水を撒くとどうなるのか・・・

熱くなった屋根に霧吹きで水を撒いている様子です。水を撒いた途端に屋根の表面温度が急激に下がる様子が熱画像で分かりました。実際の住宅でも、屋根散水の効果が大きいことが分かります。

上の図は一般の住宅での雨水を利用した屋根散水システムの例です。屋根に降る雨水をタンクに貯めて、暑い日は屋根に設置された太陽光パネルによって作動するポンプにより、屋根に水を撒く仕組みです。


団扇で風を導くと・・・

次は通風の実験です。窓から団扇で風を室内に導きいれます。片側の窓だけ開いた状態では風は通りません(下図左)。しかし、両側の窓を開けると風が通ることが模型内部につけられた吹流しの様子から分かりました(下図右)。


模型の中の様子

模型内部の様子です。左側が「環境共生モデル」、右側が「一般住宅モデル」です。「環境共生モデル」は壁が厚く、窓はペアガラス(プラスチックで2重窓を作っています)、窓まりはすだれや緑で覆われています。床は粘土で作られていて「熱容量」を大きくしています。

一方、「一般住宅モデル」では、壁は薄く、窓もシングルガラスになっています。

この2つの模型の違いにより、実際の室内環境が異なることが手にとるように分かる実験でした。

<上記イラスト3点エコアップマニュアルより抜粋>

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第4部 まとめ・快適な住まいづくりのために
武蔵工業大学環境情報学部教授 宿谷昌則

第1部〜第3部を通して、いかに快適な環境を住まい手の工夫で作り出すかという「エコアップ」について紹介してきました。一般に夏暑い時期にはすぐにクーラーをつけてしまいがちです。しかし、クーラーによる「涼しさ」とエコアップによって得られる「涼しさ」の違いとは何なのでしょうか?第4部では、この違いについて、宇宙の仕組み・地球の仕組みから、宿谷先生に紐解いて頂きました。

1・太陽がつくる地球の温度

私達が快適に暮らせているのは、太陽から光と熱が地球に適度に降り注いでいるからです。でも、実際にその状況をイメージするのは難しいのではないでしょうか。太陽と地球との平均距離は、約1億5000万キロです。しかし、そんな数字を聞いても具体的なイメージは湧きませんよね。そこで、地球がテニスボールの大きさだとしたら、太陽はどのくらいの大きさで、どのくらい離れているのか、考えてみます。

計算してみると、65ミリの地球から800メートル離れてところに7メートルの大きさの太陽がある、これが地球と太陽の関係です。太陽の表面温度は約6000度、地球と太陽の間は、―270度の何もない空間が広がっています。その距離を通過してきた太陽からのエネルギーが地球を暖めているのです。その結果、地球の表面温度は約15度に保たれています。

2・クーラーによって作られる住まいの温度

一方、クーラーによって作られる温度について考えてみます。クーラーによって室温を26度にすると仮定します。そのためには、クーラーの噴出し口からは、12度から15度の冷気を出しています。この冷気を生み出すまでに必要なエネルギーの過程をみてみます。

クーラーは電気によって動きますから、発電所で電気を作る必要があります。発電所に投じたエネルギー量を100とすると、作られた電気が送電線で送られてくる過程で35〜40に相当する部分が活用できます。さらに最終的にクーラーによって、冷気に変換できるエネルギーは100のうち、3〜5に過ぎません。

私達がクーラーによって得ている涼しさは、こうした過程を経て生み出されているものなのです。クーラーを否定するわけではありませんが、この過程を考えると、今のエネルギーの使い方は少し乱暴ではないかというのが実感です。

一方、太陽にから地球に与えられるエネルギーは、実にうまくできた仕組みで地球を快適に保っています。この仕組みをうまく利用する方法はもっと模索されて良いはずです。

3.『涼しい』とはどういうことか?

最近の研究で、クーラーによる強制的な涼しさが体に及ぼす影響が明らかになってきています。クーラーによって作られる涼しさは、エコアップによって得られる自然の心地よさとは異なる「冷たさ」を体に与え、結果として、だるさなど体に悪影響を与えるようです。『涼しさ』とは、クーラーによって作られる「冷たさ」とは異なります。湿気が多い日本独特の気候風土の中で、積極的に自然を享受することで得られる独特の感覚が『涼しさ』です。地域を異にすれば、また別の『涼しさ』があることでしょう。

身の回りの自然をうまく活用して得る『涼しさ』が内なる自然である私達の体にも良い影響を与え、また、外にも豊かな自然を生み出します。その過程で豊かな住まい方が創造されるはずです。

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